2014.04.25

野球のボールにとって含水率は、無垢材テーブルと同じように重要でした。

木材の乾燥具合を測る指標として含水率なる数値があります。無垢の木を使ってテーブルや棚といった家具を製作する上で、使用する木材の含水率は大きな意味を持っています。 木材を我々の生活に取り入れるためには、この含水率が重要になってきます。生きている(立っている)木は、内部に多くの水分が含まれています。伐倒されると、内部の水分はどんどんと外部に出ていきます。つまり、乾燥していくということです。丸太のまま外に放置していても、水の中に入れていても、木の内部にあった水分は外に逃げていきます。
水分が抜けてくると木は縮みます。今まであった水分が抜けるのでその分の体積が減るのは簡単に理解できると思います。要するに水分が抜け続ける限り、木は小さくなっていきます。

〇飛ぶボールの原因は糸の含水率だった。

含水率というマイナーな専門用語が話題になったニュースが最近ありました。ブロ野球で使われているボールが、日本プロ野球機構が定めた基準値を越えていて、飛び過ぎるという問題です。この問題に対して、ボールを製造したミズノ社は芯に巻きつけている糸が乾燥しすぎていてサイズを合わせるために多く巻いた結果として、ボールが飛びすぎる現象が生じてしまったと説明しました。ミズノ社は、この問題は糸の含水率の管理不足が原因と判断したようです。許容範囲の10%-12%を少し下回っていたと報道されていました。

普段から木材の含水率の管理をしている私は、含水率という言葉が報道されるとどうしても気になってしまいます。しかも、私の大好きな日本のプロ野球の話題なので……

私は糸の含水率に対する知識は持っていません。あくまでも木材の含水率についての知識を元にして考えているので、見当違いの考え方をしているかもしれませんがちょっと掘り下げてみたいと思います。

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僕が愛用している木材含水率計。これを板に当てて含水率を計測します。糸の含水率も専用の含水率計で計測します。

〇水分が抜けると糸も木材も体積が減って軽くなる。

報道によると、糸は冬場の乾燥した時期には、糸の乾燥も進むとあります。これは木材も一緒です。逆に湿気の多い梅雨の時期には、水分を吸って含水率が高くなります。そのためミズノ社は、温度と湿度を管理した部屋でボールに使用する糸を管理していたと説明しています。。特に管理方法を変えたりはしていないそうです。

木材も含水率を一定にするならば、温度と湿度がしっかりと調整できる部屋で管理しなくてはいけません。それでも、木材の含水率を一定に保つのは難しいように思います。同じ板のなかでも水分を多く含んでいる箇所とそうでない箇所があります。空気に触れている部分と触れていない部分でも含水率は違ってきます。木材の場合は、平均した含水率で許容範囲を決めています。糸も同様に部分によって含水率が違うと思います。恐らく糸は何かに巻かれた状態で保管されていたはずです。そうなれば、中心と外側で含水率が違うと考えられます。巻かれている内側は空気に触れていないので、水分が抜けにくくなっているはずです。そう考えると、糸の含水率を一定に保つのは、木材同様に相当に難しいと判断できます。

糸は乾燥していると体積減って軽くなります。ボールの外周や重さにも規定があるため、芯に巻きつける糸の量を調整していたようです。乾燥している糸の場合は多く糸を使用していて、堅くなります。ボールが堅くなったことでより飛ぶようになってしまったと言う事のようです。糸の含水率が1%低くなると、1つのボールに使う糸の量は約1m多くなるそうです。問題となったボールに使われていた糸の含水率がどのくらいだったかは発表されていないので、実際にどのぐらい多く糸が使われていたかはわかりません。数メートルの糸の違いで、飛距離に大きな違いが出るとなるとボールの製造ってシビアだなと感じます。そもそも、日本プロ野球機構の定めた反発係数の基準値内におさめる事が無理な要求なのではないかとも思います。ミズノ社は、使用する糸の含水率がボールの反発係数に影響があるとは考えていなかったようです。

〇天然素材を使って、大きさ・重さを揃えるのは困難な仕事

ミズノ社は、日本プロ野球機構が定めた基準内のボールを量産することはかなり大変だと判断していたはずです。少なくともボールを製造する現場の人間はそう思っていたと思います。このボールには天然の牛革も使われています。革の品質を維持するのも相当に大変だと思います。

もし、無垢材のテーブルで大きさと重さに基準を設けられたらその仕事は受けません。もちろん、大きさに関しては定められた寸法で製作はします。しかし、製作している最中から無垢材は伸びたり縮んだりしています。ある程度の誤差は必ず生まれます。重さに関してはとても統一は出来ないはずです。測ったことがないですが、同じ種類の木材でも、板によって重さはバラバラなはずです。含水率を合わせることも困難です。同じ木から採れた板でも乾燥後の含水率は違います。人工乾燥庫で同じ条件下で乾燥させても板によって含水率はそれぞれです。含水率が違ったら重さも違ってきます。ボールように糸の量で大きさと重さを調整することもできないですしね。

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人工乾燥庫に入れたあとの木材。乾燥前にギュッと縛ったヒモが緩んでいます。抜けた水分によって、板が縮みました。

この問題で私が思ったのは、含水率って何事においても大事なんだなという事です。私にとっては、木材の含水率が大事です。女性にとっては、お肌の含水率が大事。ボールにとっては、糸の含水率が大事。

瑞木@相模湖
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※このボールは2012年シーズンの日本プロ野球統一球です。飛ばないボールとされた統一球Ver.1です。今回問題になった統一球とは違います。(2012年4月17日 西武ドームでgetしたヘルマン選手が八木投手から打ったファールボール)

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