2015.09.23

須田賢司さんの木工藝【No.1319】

昨年「人間国宝」に認定された須田賢司さんの個展および須田さんが上梓された「木工藝 清雅を標に」の出版記念祝賀会に行ってきました。須田賢司さんは指物師の家に生まれ10代の頃から木工に取り組み、木工藝に真摯に取り組まれてきた方です。「人間国宝」というのは、正式には重要無形文化財の保持者ということになり、須田氏はその「木工藝」の分野で認定されました。

須田さんの個展「人間国宝 須田賢司 木工藝展–「清雅」を標に–」は三越日本橋本店の本館6F美術特選画廊で行われます。会期は本日9月23日から29日までとなっています。綺麗な杢が出ているまさに銘木を細やかな手作業で仕上げた小箪笥をはじめ、ウォールナット材のテーブルやカッティングボードなど須田さんの作品が沢山並んでいます。ほとんどの作品がガラスケースに入っていない状態で展示されているので、その細かな技の精巧さも直にみることができます。

先日、ソリウッドの相模湖工房で板を削ったウォールナット材も素敵なテーブル天板となって展示されていました。須田さんの多くの作品には蓋などに使われている金具も独創的で印象深いものがついています。一般的に販売されている家具などは金具類は既成の品を使うことが多いですが、須田さんは金具もご自身で作られています。展示されている作品は販売されているので、値付けがされています。私のような一般人が気軽に買えるものではありません。ですので、こうした展示会は素晴らしい技を身近に見ることが出来るので、貴重な機会といえるでしょう。木工や木に興味がある方には、一見の価値がある展示会です。

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また、個展の開催とともに著書を出版されています。それが「木工藝 清雅を標に」です。出版記念の祝賀会の席で須田さんは、木工藝は古くから世界中どの地域でも身近な存在とされてきたが、最近では陶藝など他の工藝分野に比べると、知っている人が少ない。木工藝がどういうものなのかを多くの方に知って頂くのも私の仕事だと思うという主旨の挨拶をされました。その想いを実現する一つがこの本だと思います。前半部分は、須田さんの作品の写真とご自身による解説、後半は日本木工史とわたしの仕事と題してこれまでの木工の流れと須田氏の仕事場や仕事の仕方が書かれています。

前半部分を読むと、須田さんの作る素晴らしい作品だけでなく、作品を作り出す際の土壌として木工や木材の知識のみならず漢詩など他国の文化に対する深い造詣が伺えます。後半部分の木工史については、まだ読解が浅く全てを理解していませんが、現役の木工家がここまで歴史について知識があることに驚きました。一番興味深く読んだのは、須田さんの仕事をする際の仕事場、使う道具について書かれているところです。特に鉋について書かれている点で、通常の家具などを製作する際は板を削るのに、昇降盤や鉋盤といった機械で削ることがあります。機械加工はどんなに精度が高いものでもわずかではありますが、公差がでてきます。しかし、須田さんの作る工藝製作では、この公差が許されません。正方形の箱の4辺はあくまで全く同じである必要があるそうです。ですので、須田さんは手鉋に頼ることになるとのことです。想像はしていましたが、精巧な仕上げにはどうしても手での作業が必要不可欠だそうです。さらに鉋削りがうまくいく要点を解説しています。かなり専門的な内容ではありますが木工教室の生徒さんには参考になる内容かなと思います。

先ほど、須田さんは金具までご自身で作ると書きましたが、その点についても詳しく解説しています。金具を作るということは、金属加工になるので、木工ではなく金工の分野になります。もともとお父様も金具類が好きで用いることが多かったそうで、自然に木工と金具の世界を一つとして捉えていたとのことです。本書を呼んで初めて知りましたが、こういった金具は錺(かざり)という世界で40年ほど前には錺職という専門家が存在していたそうです。本書ではそのうちの1人で須田さんと親交のあった錺職の森勝造氏とのエピソードも紹介されています。

須田さんの作品や書に触れて、改めて木工の趣深さ、木の存在感を知ることになりました。また、丁寧に仕上げられた木製品は人の精神の拠り所にも成り得ることを再認識しました。ソリウッドで製作する家具は、須田さんが作り出す芸術作品とはまた違ったものではありますが、家具を通して伝えたい木を身近に感じて欲しいという想いは共通するところがあると思った大型連休最後の日でした。

賢木@吉祥寺

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